【SS】早起きのわけ
Written By MORITA
【SS】早起きのわけ
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−日曜日 08:00 AM−
ピピッピピッ…
目覚まし時計の音が聞こえる。朝か…。
あたしは条件反射のように、手探りで目覚まし時計を探し当てると、その頭を
叩く。
ピピッピッ…。
再び訪れる静寂。さー、もっかい寝なおそ。
………。
………。
………。
…って、そうじゃなくってぇ!
いけない、いけない。危なくまた寝ちゃうところだったわ。あたしは早起きす
るって決めたんだから。
ちょっとだけお布団の温もりを味わって、体を起こす。ボーッとしてた頭がだん
だんハッキリしてくる。
なんとも言えないすがすがしい感じ。
やっぱり朝はちゃんと起きないとねっ。
服を着替えてリビングへ。シンジ、もう起きてるかしら?
「あら、アスカ。おはよ」
シンジはまだ起きていなかった。いたのはミサト。
「おはよ、ミサト。早いのね。どこか出掛けるの?」
ミサトが着てるのは下着同然のような室内着じゃなくて、ちゃんとした服。
「え? ああ、違うわよ。ちょっと仕事がたまっててさあ。今帰ってきたのよ。
これから寝るの」
「ふーん。大変なのね」
「まあ、これくらいはどうってことないんだけどさ。それより…」
そう言ってミサトは、意味シンな顔になる。
「アスカこそ早いじゃない。休みのときは、昼過ぎまで寝てるのに。もしかし
て今日は、シンジ君とデートかなぁ?」
かああっっ
ボッと音が聞こえるくらい、顔が赤くなっていくのがわかる。
「あはっ、耳まで真っ赤になっちゃって。かーわいいっ」
「そ、そんなわけ、あるわけないでしょっ!いつもいつも、そんなことしてた
ら、お小遣い無くなっちゃうわよっ」
朝っぱらからくだらないこと、言ってんじゃないわよっ。
「そうよねー。そんなことしなくても、シンジ君とアスカはラブラブよねー」
「ふ、ふんっ」
あたしはミサトに『ぷいっ』とすると、洗面所に向かう。
まったくミサトの奴。朝から酔っぱらってるんじゃないの? 徹夜で仕事して
たんじゃなくて、飲んでたんじゃないの?
あたしが早起きするのは、ちゃんと理由があるんだから…。
***
−1週間前の日曜日−
トントン。
部屋のふすまを叩く音。誰よぉ、人がいい気持ちで寝てるのに。
「アスカ、朝だよ」
シンジぃ?休みだっていうのに、早起きねぇ。
「アスカ、朝だよ。そろそろ起きなよ」
あたしは布団の中から返事する。
「いいじゃない、休みなんだし。もうちょっと寝かせてよ」
「そんなこと言ったって、もう9時過ぎだよ。ご飯どうするのさ」
「起きてから食べる」
「…わかったよ」
シンジが帰っていく気配。ちょっとだけ胸が痛む。
でも、休みのときくらい、自由に寝かせてくれても、いいでしょ?
そしてあたしはまた、まどろみの世界へ…。ZZZ…。
フッと目が覚めた。
いま何時だろ?枕元の時計を見る。
えーと、1時か。さすがに寝すぎたかな。
おなかも空いたし、いいかげん、起きるとしますか。
「おはよー…」
顔を洗う前に、ひとまずリビングに顔を出す。
でも、
「誰もいないの?」
リビングには、シンジもミサトも居ない。
シーンと静まり返っている。
ああ、そういえば、ミサトは休日出勤とか言ってたっけ。
シンジは…、きっと買い物ね。
キッチンのテーブルの上に、食事の用意がしてある。
あたしの場所に一人分。あたしのご飯みたい。
シンジはちゃんと用意してくれてる。ありがとね。
まあとりあえず、ご飯食べようかな。
一人の遅い朝ご飯。三人すわるテーブルに、一人。
「いただきます」
もそもそと食べる。だけど、なんだか、おいしくない。
シンジのご飯、大好きなのに、今日はおいしくない。
冷めちゃったから?ううん、違う。
シンジの作るご飯は、冷めてもおいしい。お弁当なんか、お昼には冷めてるの
にいつもおいしいし。
シンジのご飯、大好きなはずなのに。
なんで、今日はおいしくないんだろう。
結局あたしは半分も残した。いつもは全部食べて、おかわりもするのにな。
朝ご飯が終わったけど、今日は何もすることがない。
つまんないから、テレビでも見ようっと。
クッションに座って、テレビのスイッチを入れる。
それにしても…。日曜の昼って、ほんとロクな番組がないわね。
手当たり次第にチャンネルを変える。
ああもうっ、どれもこれもつまんないっ。
やーめた。あたしはスイッチを切った。
プツン。
その途端、部屋が静まり返る。
あたしが何かしなければ、何の物音もしない。
あたし以外、誰も居ない部屋。
誰もいないんだ。シンジもミサトも、誰も…。
すごく静かなはずなのに、耳が痛くなりそう。
もう一度、テレビをつける。
画面も見ない。音も聞かない。
だけど、静まり返っているよりは、こっちの方がマシ。
物音一つしない部屋だから、何か音が欲しい。
テレビはそのまま放っておいて、ゴロンと横になる。
いっそ眠ることができたら、この退屈な時間も消化できるんだけど、さっきま
でさんざん寝てたから、少しも眠たくない。
仰向けになって天井を見上げる。
そういえば、あたし、今日誰にも会ってないんだな…。
シンジにも、ミサトにも…。
シンジ、どこまで買い物に行ったんだろ。いつから買い物に行ったんだろ。
それが分かれば、いつ帰ってくるか大体分かるのに。
いつ帰ってくるんだろ、シンジ。
まったく、買い物一つするのに、何時間かかってんのよ。
さっさと済ませて、帰ってきなさいよね、バカシンジ。
早く、しなさいよ、シンジ。
早く、帰ってきてよ、シンジ…。
リビングの時計を見る。
起きてからそろそろ1時間。
はあ、やっと1時間か…。
でも、ということは、シンジは少なくとも1時間も買い物に出掛けていること
になる。
珍しいな。ううん、こんなの初めて。何か豪勢な買い物でもしてるのかな。
適当に済ませて、早く帰ってくればいいのに。
ピロロロロッ
テレビから聞きなれないアラーム。何?
見ると、画面の上に字幕が出てる。ニュース速報か。
なになに…。
交通事故?ふーん。あら、この住所、家の近くじゃない。
車に中学生がはねられた?男の子?
…まさかね。
ここら辺、中学生なんて掃いて捨てるほどいるんだし。
中学生ったって、1年生から3年生までいるんだし。
いくらドンくさいシンジだって、ひかれるような真似、しないでしょ。
シンジが帰ってこないのは、たくさん買い物してるせいよ。
きっと今夜のご飯はごちそうだわ。たのしみ〜。
そう、もうちょっとすれば、シンジは帰ってくるわよ。「ただいま」って言っ
て。
そうよね、シンジ?
今、うちに向かってるのよね?
たくさん買い物したから遅くなってるのよね?
シンジ?
シンジ…。シンジ。シンジ!
シンジ!!
「!」
あたしはガバッと跳ね起きた。
なんだろう。何だか分からない。でも、急にシンジのことが心配になった。
そんなことある筈がない、と言っている自分と、もしかしたら、と言っている
自分。
二つの声に挟まれて、いてもたってもいられない。
どうすればいい?どこへ行けばいい?そんなの分からない。
NERV? 病院? 警察? 何だっていい。シンジのところへ行きたい。
急いで身支度を整えて、玄関に向かう。
つっかかりながら靴を履いて、ドアを開けようとした時。
そのドアが勝手に開いた。
「あれ? アスカ。どっか行くの?」
ドアの前に立っているのは…、
シンジ。
どこも怪我してない、いつもの、いつも通りの、シンジ。
うそ…。ホントに? ホントにシンジ?
「ア、アンタ…」
「僕? トウジ達と、隣町まで遊びにいってたんだ。新しいゲームセンターが
できたから、行ってみようって」
何事も無かったかのように話すシンジ。
あたしは、その場にへたりこんだ。
***
あの後あたしはワンワン泣いた。
シンジが無事だったことと、自分のバカさ加減に呆れて。
そして、決めたんだ。ちゃんと早起きしようって。
あの時も、シンジが起こしに来たときに、ちゃんと起きてれば、あんな事には
ならなかったんだし。
それに、何もなかったとしても、この家にたった一人でいるのは、イヤ。
あたしと、シンジと、ミサトと、三人でいるのがいい。
だって、あたし達は、家族なんだから。
洗面所から出てきても、シンジはまだ起きていなかった。
「シンジ、まだ寝てるの?」
ミサトは眠そうにあくびをしながら答える。
「そうなのよ。あたし、ご飯食べてから寝たいのよね。アスカ、悪いんだけど、
シンジ君起こしてくれる?」
「うん、わかった」
そうよね、シンジにしては、この時間まで起きてこないのは珍しいわよね。
たまにはあたしが起こしてあげようっと。
シンジの部屋のふすまを叩く。
トントン。
「シンジ?」
返事がない。眠りこけてるのかしら?
「シンジ、開けるわよ?」
静かにふすまを開けて、シンジのベッドに近づく。
「シンジ、朝よ」
シンジはうっすらと目を開ける。
「う…ん。アスカ…?」
「おはよ。ミサトがね、朝ご飯食べたいって」
「え…、ああ、もうそんな時間か…」
そのまま、また眠ろうとする。こらっ。
「ほぉら。起きて。ほらほら」
あたしは布団をひっぺがそうとする。抵抗するシンジ。
「やめてよ、アスカ」
「だったら起きなさい。ほらほら、早く」
頑固に布団にしがみついたまま、シンジが言う。
「そんな起こされ方じゃ、起きたくないよ。もっと優しくしてよ」
え…?
優しくするって…?
「や、優しくするって、どんな風によ」
「え、あ、だ、だから、その…。よく、映画とかでさ…」
顔が赤くなっていくシンジ。つられてあたしも赤くなる。
「優しくすれば、起きるのね?」
「う、うん」
「じゃ、じゃあ、あの、目を、閉じて…」
言われたとおりに目を閉じるシンジ。閉じた唇。
(優しく、起こす…)
そおっと、シンジの顔に近づく。起きて、シンジ…。
「ウオッホン」
「「!」」
あたしはパッとシンジから離れる。シンジも目を開けた。
恐る恐る振り返る。部屋の入口には、ミサトが立っていた。
「あら〜。なんか、ジャマしちゃったかなぁ〜?」
ニヤニヤしてるミサト。あたしとシンジは、声も出ない。
「お楽しみのところ、悪いんだけどぉ。おなか空いちゃったから、ご飯つくっ
てくれるかしら、シンジ君?」
「は、はいっ!」
飛び起きて、急いで部屋を出ていくシンジ。取り残されるあたし。
「ふ〜ん。アスカの早起きのわけって、これだったのねぇ」
「ちっ違うわよ!」
あ、あたしは、三人でいるのがいいって思ったからなんだからっ。
「別にいいのよ。無理しなくても。いやー、若いっていいわねぇ」
『一本取った』の表情のミサト。だからホントに違うんだってばぁ。
信じてよぉ。
(終わり)
FJTの感想
「鉄コン筋クリート」仲間のMORITAさんから投稿第1号いただきました!
さすが「”元祖”鉄コン筋クリート」ですね(笑)。
さてシンジとアスカはどうしたかったのだろう(笑)
MORITAさんへ感想メールはCXZ00212@nifty.ne.jpまで
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