【SS】間違い電話
Written By MORITA
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【SS】間違い電話
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「じゃ、また来週ね。アスカ」
「うん。たまにはあたしが行く前に起きてなさいよね」
「えー。アスカが起こしにきてくれるから、いつもギリギリまで寝てられるの
に」
「何言ってんの。アンタ起こすの大変なんだから」
「どうせ、叩いて起こすんだから、変わらないじゃない」
「あっそう。じゃ、今度からはグーで叩いてあげようか?」
「あっ。それは、許して」
学校帰り、隣どうしの自分の家の前で、あたしとシンジはおしゃべりしてる。
今日は土曜日。これで今週はおしまい。また来週から、同じ様な1週間が始ま
るんだけど…。
「じゃ、また来週。朝よろしく」
そう言ってシンジは、自分の家に入る。その姿を見送ってから、あたしも自分
ちのドアを開けた。
「ただいまー」
「あら、おかえり。アスカ」
ママの声。いつもはお仕事だけど、土日は仕事なしだから、家にいてくれるん
だ。
「ただいま。ママ」
「…どうしたの? アスカ。何だか暗いわよ」
「えっ? そ、そう?」
思わずあたしは、自分の顔を触ってみる。
別に意識してなかったけど、顔に出ちゃったのかな?
「あー、わかった。シンジ君とケンカしちゃったんでしょう」
「…違うもん」
「うそ。アスカの顔に書いてあるわよ。『シンジとケンカしちゃった。どうし
よう』って」
「違うもん。ケンカじゃないもん」
「そう? じゃ、まずはお昼にしましょうか。その後で、ママに話してくれる?」
ニコッとするママ。
あたしはコクリと頷いた。
はー、お腹いっぱい。やっぱりママのご飯っておいしい。世界一よね。
お腹いっぱいになったら、さっきまでの暗い気持ちがどっか行っちゃった。
「おいしかった? アスカ」
「うん。ごちそうさま」
ママは食べおわった食器を台所に運んでいく。その後ろ姿を見ながら、ママに
尋ねる。
「ねえ、ママ?」
「なあに?」
「ママとパパって、どうやって知り合ったの?」
「ん? 大学でよ」
「デートとか、した?」
「うん。一緒に映画見たりしたわよ」
「それじゃあさ、会えない時とかどうしてたの?」
「…わかった。アスカ、シンジ君と会えなくて寂しいから暗かったのね?」
テーブルに戻ってきて、お茶を入れながら、今度はママが尋ねてくる。
「違うもん。今日も一緒に帰ってきたもん」
「じゃあ、明日だ。日曜日、遊べないからでしょう?」
うん。あたしは頷く。
「だってさ、ママ。聞いてよ。シンジったら最近冷たいのよ。あたしが毎朝起
こしに行ってあげてるのに、『ありがとう』も言わないし、一緒に遊ぼうって言
わないのよ。あたしのことなんか、お構いなしなんだから」
あたしは最近たまってた不満を一気に話した。するとママはニコッとして、
「それはきっとシンジ君、アスカに甘えているのよ」
って言った。えー、何それ。納得できない〜。
「シンジ君、アスカと一緒に居ると安心できるのよ。だから、わがまま言って
るのよ。ママはそう思うな」
「だって、そんなの不公平じゃない」
あたしばっかり、我慢しなきゃなんないでしょ。
「そこをグッと我慢して、『そんなの気にしてない』って風にしてると、男の
子って、すごく喜ぶのよ。アスカ、シンジ君に嫌われたくないでしょう?」
それは、そうだけどぉ。
「でも、つまんないもん」
「何も、シンジ君が誘ってくれるのを待つことないでしょ? アスカのほうか
ら言えばいいじゃない」
それも、そうだけどぉ。
「でも、いっつもあたしから言ってるもん」
たまにはシンジから言って欲しいし…。
「だめよ。シンジ君おとなしいから、待ってたらいつまでたっても遊べないわ
よ?」
う。た、たしかにそれはあるかも…。
「ああいうタイプは、こっちから『押せ押せ』でいくのがいいのよ。ユイも凄
かったんだから」
「え? ユイおばさまのこと?」
「そうよ。ママとユイとパパと碇さんは同じ大学に行ってたのよ。知ってるで
しょ?」
その話は聞いたことがある。かなり名の知れた4人組だったらしい。
「それでね、碇さん無口でしょ? 静かだし。ユイも初めは待ってたんだけど、
いい加減痺れを切らしてね。もうそれからは『押せ押せ』よ」
ママは、お相撲さんみたいに手を動かす。何だか、おばさまがおじさまに『の
こったのこった』ってしているみたいで、思わず吹き出した。
「そんなに凄かったの?」
「もう、一ヵ月も前から約束してて、1年中引っ張り回してたわ。でも、碇さ
んも嬉しそうだったし。
だからアスカも、シンジ君を引っ張り回すくらい遊びにいけばいいのよ」
「うん…」
でも、いまさら行くのもなんだしなぁ…。
プルルルルッ プルルルルッ…
あたしがどうしようか迷っていると、電話がなった。
! もしかして、シンジ!?
「はいはい…」
ママは電話を取りにいく。え? シンジ? シンジかな?
もしかして、明日一緒に遊ぼうとか言ってきたのかな?
どこに行く気かな…。
ママはすぐに戻ってきた。え? ホントにシンジなの?
「間違い電話だったわ」
ガクッ。
まあ、そうよね。そうそううまく行くはずないわよね。
「誰だったのかしら。いきなり切れちゃったから」
「男か女かもわかんないの?」
「だって、こっちが『はい惣流です』って言ったら、いきなりガチャッて切れ
たのよ」
ふーん。変な奴〜。
…………。
…………。
…………。
そうだ!
あたしは電話を取ると、番号を回す。ダイヤルはシンジの家の番号。もう見な
くても、指が勝手に動く。
2,3回の呼びだし音のあと、繋がった。
「はい、碇です」
シンジの声。なんか、こうやって聞くと、変に緊張しちゃう。
「もしもし?」
シンジの声は聞こえてくるけど、ドキドキしてうまく言葉が出てこない。やっ
との思いで声を出す。
「あ、シ、シンジ? あたし。アスカよ」
「ああ、アスカか。どうしたの?」
さ、さて、それじゃあ…。
「あの、ね。今、あたしんちに電話がかかってきたんだけど、もしかして、シン
ジがかけたの?」
「え? 別にかけてないよ」
「あ、そう」
「じゃ、バイバ…」
こら、早すぎる! まだ切るんじゃないっ!
「あーっ。ちょ、ちょっと待って! あのさ、アンタ、明日何もない?」
「うん。別に何もないけど?」
「あ、あたし、映画。見たい映画があるのよ。それでさ、アンタも、行かない?
かな、と思って…」
「映画? どんな奴見たいの?」
「え? あ、まあ、色々あるんだけど」
あてずっぽうで言ってるんだから、ツッコむなっ。
「そうだね。映画なんてひさしぶりだな」
「でしょ? 行ってみない?」
「うん。いいね」
よしっ。決まりっ。
「じゃ、今からそっちに行くから」
「へ? 何しに?」
「明日のスケジュール立てんのよ」
「スケジュールって、映画見るだけでしょ?」
…こンの、ウルトラ鈍感バカシンジっ!
「アンタみたいにボケボケッとしてたら、時間がいくらあっても足りないでしょっ」
「えー? 僕そんなにボケッとしてる?」
…鈍感。
「とにかく、今からいくからね」
あたしは受話器を置くと、ママに声をかける。
「ママー。シンジのとこに行ってきまーす。明日もシンジと遊びに行くからー。
あ、それと、帰ってきたら、ユイおばさまの話、もっと聞かせてねー」
決めた。あたしも「押せ押せ」でいこう。おばさまが一ヵ月前だったから、あ
たしは3ヵ月前から約束して、毎日シンジを引っ張ってやるんだ。
間違い電話、もっとかかってこないかな。今度からかかってきたら、シンジの
ところに電話するんだ。
そして、今のはシンジだったかって聞くの。その後に遊ぶ約束して…。
ああ〜。1日1本、間違い電話がかかってきますように。
(終わり)
FJTの感想
MORITAさんより2000HIT(3000目前)記念いただきました!
LD・ビデオ発売記念とあわせて二本もSSをいただけるとは光栄です!
シンジ君、鈍いですからね(笑)。アスカの方からプッシュしなければ先に進めないかもね(笑)
キョウコママの昔話もなんかいいですね。さすがにゲンドウの方からデートに誘う姿なんて想像できませんもの。それはそれで面白いかもしれんが(笑)
ユイさんも押しが強そうだし。
MORITAさんへ感想メールはCXZ00212@nifty.ne.jpまで
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