【SS】好きということ
Written By MORITA

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【SS】好きということ
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 イライラする。
 落ち着かない。
 最近、いつもこうだ。

 アスカ。

 アスカのことになると、イライラする。


 最後の闘いが終わって、学校が再開されて、皆が戻ってきて、
 アスカも、退院できて。
 それはよかった。
 疎開が終わって、クラスメートが帰ってきて、教室が賑やかになった。
 そして、その賑やかの中心には、いつもアスカが居た。
 もともと、転校してきてから目立っていたし、最近のアスカは前とは違って、
刺々しさがなくなったから、自然と人が集まるようになった。

 当然、女のクラスメートだけじゃなく、男も。

 僕の目から見ても、「それ」とわかるような態度をとる奴が多い。
 ほら、また…。

 なにが「惣流さん」だよ。アスカのこと、さんざん陰口叩いてたくせに。
 「顔はいいけど、性格はなぁ」とか、言ってたくせに。
 アスカだって、迷惑だよ。どっか、行けよ。

 僕の心の声が聞こえているのかいないのか、そいつはやたらなれなれしくアス
カに話しかける。
 そして、アスカも、相づちを打ちながら笑ったりしてる。

 アスカ、笑うなよ。何がそんなに面白いんだよ。
 アスカ、僕と一緒に居るとき、一度でもそんな顔した?
 そんな風に、楽しそうにしてたこと、ある?

 アスカが笑うたびに、僕の胸が締めつけられたみたいに痛くなる。
 イライラ、する。もう限界だ。

 ガタッ

 僕はわざと音を立てて立ち上がった。そいつの前に割り込むようにして、アス
カの前に立つ。
 「アスカ、ちょっといい?」
 「どうしたの?」
 「明日の予定のことで、ちょっと話しておきたいことがあって」
 「どんなこと?」
 「あの…、NERVのことだから、ちょっとここじゃ…。別のところへ行って、
  さ」
 口からでまかせだ。僕らがチルドレンだといっても、やっぱり中学生だから、
他人に聞かれてもいいことしか聞かされていない。
 今までNERVのことで、学校でアスカと話すことがあっても、場所を変えて、
なんてことはしなかった。
 でも、今は、どんな強引な理由でもいい。とにかくアスカをこの場から、あい
つから離したかった。
 さすがにこうなったら、あいつも何も言えない。ちょっとスッとした。

 「別に聞かれてもいいような内容じゃない。わざわざ教室を出ることなかった
  でしょ?」
 用件が終わって教室に戻るとき、アスカが僕に言った。
 何だよ、そんなにあいつと話していたかったのかよ。

 僕だってわかんないよ。何でアスカのことになると、こんなにムキになるのか。
 何でこんなに、胸が痛くなるのか。




 学校から帰って、ご飯食べて、アスカとミサトさんは一緒にテレビを見てる。
 何とかっていうアイドルが出てる。それ見て二人でおしゃべりしてる。
 「ねえねえミサト。この人どう思う?」
 「んー? まあ、結構カッコいいんじゃない?」
 「やっぱりそう思う? このちょっと長い髪の毛とか、いいわよねー」
 長い髪の毛ねえ。青葉さんみたいなのがいいのかな。
 「それよりも、やっぱり男は逞しくなきゃだめよん」
 「あ、それもある。ヒョロッとしてたら、なんか頼り無さそうだもんね」
 ふーん…。あ、そろそろお風呂沸いたな。
 「二人とも、お風呂沸いたけど、どっちか先に入る?」
 「んー? まだいいー」
 「あたしもー」
 「それじゃ、僕、先に入るけど…」
 「どうぞー」
 「ゆっくり入ってらっしゃい。風呂は命の洗濯よ」
 それじゃお先に…。

 脱衣所で服を脱いでいるとき、ふと鏡をのぞき込んだ。
 髪、伸びてきたな…。
 (このちょっと長い髪の毛とか、いいわよねー)
 …ちょっと散髪、遅らせようかな…。それとも、長めに切ってもらおうか…。
 (ヒョロッとしてたら、なんか頼り無さそうだもんね)
 まあ、筋肉がないのは知ってるけどさ…。少し鍛えようかな、トウジにでも教
えてもらって…。

 …何やってんだ、僕は。鏡の前で、裸で。
 さっさと入ろう。風邪引いちゃうよ。

 ほんと、僕、どうしちゃったんだろう。




 次の日の放課後。僕は一人で帰ってる。
 いつも一緒に帰るのに、今日に限ってアスカは、「用事があるから」と言って、
先に帰ってしまった。
 まあね、たまにはそんなこともあるさ。…ちょっとつまらないけど。
 今日の晩ご飯の献立を考えながら、一人で歩く。
 昨日は洋食だったから、今日は和食にでも…。

 (今日用事あるから、先帰るね)

 和食は結構、アスカも気に入ってるし。

 (今日用事あるから、先帰るね)

 …アスカの用事って、何なんだろう。そりゃあ、知られたくないこともあるだ
ろうけどさ。

 (今日用事あるから、先帰るね)

 そんなに大事な用事なの? 僕と一緒に帰れないくらいの…。


 そこまで考えて、ハッとした。
 何だ? 『僕と一緒に帰れない』ってのは? 一体何を考えてるんだ?僕は。
 何で、アスカのことを思うと、こんなに…。


 悶々とした気分を抱えて、家に着く。
 でも、とてもご飯の仕度をする気にはなれない。そのままドサッとソファに腰
を下ろす。

 最近の僕は、どこかおかしい。
 アスカのことを考えると、胸が締めつけられるようになる。
 アスカが他の男と居るのが、どうしても我慢できない。

 何だってんだ…。

 アスカが心配だって事?
 それは前もそうだった。アスカが入院しているときは、暇があればアスカを見
舞った。
 でも、それは、アスカのことが心配で…。別に「好き」とか、そういうんじゃ…。

 「好き」?

 「好き」って、誰のことが?


 「好き」という言葉が、僕の頭のなかを駆け巡る。
 色々な表情のアスカが、僕の頭のなかを駆け巡る。
 怒ってるアスカ、一緒に食事してるアスカ、テレビ見てるアスカ、ベッドに横
たわってるアスカ。
 そして。

 笑顔のアスカ。

 その瞬間、パアッと、何かが晴れた。


 さっきまでの悶々とした気分は、もうない。
 そして今は、はっきりと見える。手に取るように分かる。

 僕が、アスカのことを、好きだっていう気持ちが。

 涙が出るくらい気持ちが昂ってくる。
 何か、満たされた気持ちになってくる。


 僕は、アスカのことが、好きなんだ。




 その日の夜、僕はアスカに付き合って、一緒にテレビを見ることにした。
 いつもはつまらないからと言って、すぐ部屋に戻るんだけど、今日は付き合っ
てみよう。
 いや、違う。テレビなんか、面白くてもつまらなくてもどっちでもいい。
 テレビなんかどうでもいい。少しでも長く、アスカと一緒に居たい。

 ふと、アスカの横顔を眺める。
 一緒に暮らして、もう見慣れてると思っていたのに、初めて見たような気がす
る。
 一体僕は、今までアスカの何を見ていたんだろう。とんでもない色眼鏡を掛け
ていたみたいだ。

 全然気付かなかった。
 アスカがこんなに綺麗だなんて。
 今まで知らなかった。
 アスカがこんなに可愛いなんて。


 「なに? シンジ。人の顔をジッと見たりして」
 あんまり長くアスカの顔を見てたから、アスカも気付いたみたいだ。
 アスカの顔も、アスカの声も、昨日までとは全然違うように感じる。
 僕は今思っていることをそのまま口にする。
 「…アスカのこと、可愛いと思って」
 とたんに、アスカの顔が真っ赤になる。
 「なな、何言ってんのよ!いきなりっ!」
 アスカは早口でまくし立てる。そんな仕草もたまらなく可愛い。
 「あ、あたし、もう寝るわ! 何か調子狂っちゃった。
 アンタも今日変よ! さっさと寝なさい!」
 アスカは立ち上がると、足早に自分の部屋に向かう。
 「おやすみ、アスカ」
 アスカがリビングを出る直前、僕は声を掛けた。
 アスカは一瞬立ち止まって、口を動かす。
 「…………」
 聞き取れないくらい小さな声だったけど、アスカも「おやすみ」って言ってく
れたことがわかった。


 言い寄ってくる男なんかに負けない。そんな奴ら、アスカの傍には近づけさせ
ない。
 僕が、僕だけがずっとアスカの傍に居るんだ。
 アスカのことが、好きだから。


 おやすみ、アスカ。

 おやすみ、僕の好きな人。


                            (終わり)

FJTの感想

MORITAさんより3000HIT記念いただきました!

さすが「元祖」鉄筋(笑)
「あたしの頼る人,僕の護る人」で、「僕はアスカが好きなことに気が付いた」と言っているところの話だそうです。
人を好きになる気持ちが表れていますね。
自分の気持ちに気付かないでイライラしているシンジ。でも、一旦気付いてしまえば簡単なことなんですよね。

あぁ、MORITAさんからもう5本もSSもらっているんだ・・・。早いなぁ。

MORITAさんへ感想メールはCXZ00212@nifty.ne.jpまで
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