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             【SS】ATフィールド
             第8話「平和な日常の中で」
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 シンジとアスカがミサトやトウジ達と再開したその日から他の人たちも戻って
くるようになった。一ヶ月もすれば大半の人が戻ってきた。
 LCLの海から戻ってきた人々はLCLになっていた頃の記憶が無くなっていた。
それは朝、目覚めたときにそれまで見ていた夢の内容を思い出せないでいるのに似
ていた。
 世界的に見れば人が突然いなくなり、突然戻ってくるような感じであったために
復興は早かったが(それでも太平洋の海岸付近は爆発の影響で起こった津波により、
かなりの被害があった)、日本はそうではなかった。
 エヴァシリーズの起こした爆発により第三新東京市を中心に半径数十キロ以上の
大地はえぐられたりしたため、LCLの海から戻ってきても帰るべき場所を無くし
てしまった人が多く混乱が混乱を招いていた。
 ネルフはこの状態を予測していたため、いち早く復興機関として動き出した。
総司令であるゲンドウが行方不明であったため、副司令であった冬月がその指揮を
とっている。冬月曰く、

「最後の最後まで面倒なことを押し付けよって。あの男は・・・。
 大変なのはこれからだよ。
 だが、人は人として生きることになった。これで良かったのかもしれんな」

とのこと。
そして、ネルフは持っている情報を総動員して世界中に情報戦をしかけた。その後
日本政府も動き出したが、ネルフの情報量に勝てるわけもなく、ゼーレにいいよう
に躍らされただけの無能の烙印を押されてしまった。また、そのゼーレは存在の
痕跡こそあったものの、主要な人物達は行方不明となっている。

 結果、ネルフの存在は世界的な復興機関として動き始めた。

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 シンジとアスカは以前と同じようにミサトと一緒にマンションで暮らしている。
マンション建設はネルフが真っ先に着手した復興事業の一つであった。マンション
が完成するまでは狭い仮設住宅で別々に暮らしていたが、完成したときミサトが
「ねぇ、これからも以前と同じように一緒に住まない?」
と、いってきた。それ以来三人は再び一緒に暮らすようになった。

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 更に数カ月後、学校が再開された。

 朝、シンジはお弁当を作り、朝食の準備をする。
朝食を済ます頃にはトウジ、ケンスケ、ヒカリが迎えに来る。シンジはトウジや
ケンスケと、アスカはヒカリとおしゃべりしながら5人で学校へ向かう。

 シンジ達は以前と同じように同じクラスになっていた。
始めのうちこそ人数は少なかったが、日に日に人数が増えていき、それにつれて
教室は賑やかになっていった。
 アスカはヒカリと一緒にいることが多い。以前のアスカはエヴァのパイロットで
あるというエリート意識があったため友達らしい友達が少なかったが、今は誰とで
も自然に振る舞えるようになり、それ以外の友達も増えていた。

 退屈な授業をうける。授業中アスカは無意識のうちにシンジの方を眺めている。
が、自分がシンジのことを眺めていることに気付く度に、
(なぜ、こんなにシンジのことが気になるのだろう)
と不思議に思ってしまう。

 昼休みアスカはシンジからお弁当をもらい、ヒカリや数人の女子と一緒にお弁当
を食べる。

「アスカ、そのお弁当おいしそうね」
「そう?」
「碇君の手作りなんでしょ」
「まぁ、あいつの取り柄なんてこのぐらいだからね」
「その割には嬉しそうね」
「ねぇ、アスカさんって、碇君と一緒に住んでいるんでしょ」
「そ、そうだけど」
「それって羨ましいわね」
「アスカさん、碇君のことどう思ってんの」
「た、ただの同居人よ!同居人・・・」
「またまたぁ」
「結構あこがれている娘って多いらしいよ」

だが、アスカの心の中では漠然としない思いにつつまれていた。

(そうよ、ただの同居人。それ以外のなんでもないもの・・・・・・)


 一方、シンジもまた前と同じようにトウジやケンスケと共に行動する事が多いが、
それ以外の友達もできた。以前のようなおどおどした感じも薄れてきた。
ちなみにシンジ達は以前と同じように3バカトリオと呼ばれている。
 シンジもトウジやケンスケと一緒にお弁当を食べている。ちなみにトウジのお弁
当はヒカリの手作りである。

「女子どもってのはどうしてああも騒々しいんや」
「まったく。それにしても二人とも変わったよな」
「そうかな」
「そうだよ。惣流は前より回りに打ち解けているようだし。以前はどこか無理して
 いるようだったし、イインチョー以外の奴と一緒にいるところなんかめったに見
 かけなかったもんな」
「シンジかてそうや。以前はどこか暗い感じがしておったが、今はなんてゆーか
 吹っ切れた感じがしよる」
「それにしてもあれだな、俺たちがいない間に二人の間に何かあったのか?」
「なんで」
「いや、全然夫婦ゲンカしているところを見かけないなと思って」
「そやな。前はそれが楽しみやったのに」
「なんだよ、その『夫婦』ってのは」
「それはともかくとしてだ。二人とも回りに打ち解けるようになってきたのに、
 お互いに対してはどこかよそよそしいからな。特に最近はな」
「そうかなぁ・・・。そうかもしれない・・・・・・」
「その割には二人とも離れようとせんのはどうゆうことや」
「俺たちにはわからない何かがあるんだよな、シンジ」

(・・・僕とアスカの関係って、一体何だろう・・・・・・・・・)

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 そんなある日の夜のこと。シンジが風呂に入っている間にアスカはミサトからあ
ることを告げられた。

「アスカ、話があるんだけど」
「なに、ミサト」
「ネルフのドイツ支部から、戻って来ないかって言ってきてるのだけど」
「それってドイツに帰れってこと?!」
「そう。ドイツ支部の研究機関で働かないかって。
 それにこれは強制ではないわ。ただ、一度帰るたら再び日本に戻ってこれるかど
 うかわからない。
 一週間後、日本にとどまるかドイツへ帰るかよく考えて答えを出してちょうだい」
「・・・・・・・・・・」

 アスカは突然のことに言葉を失い呆然としている。そこへお風呂から上がった
シンジが声をかける。

「アスカ、どうしたの?」
「な、なんでもないわよっ!」

 アスカはそう言うと自分の部屋に戻っていった。

「ミサトさん、アスカどうしたんですか?」
「ちょっちね。アスカが決めることだから・・・」

 その日の夜アスカは日本にとどまるかドイツに帰るか悩んでいた。

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 翌日。いつものように学校へ行っていつものように授業をうける。そして放課後。
シンジはトウジ達に連れられてどこかへ遊びに行ってしまった。
夕方。シンジはいつものように食事の支度をし、いつものように片付け、お風呂に
入る。しかし、遊び疲れたらしく早々に寝てしまった。

 アスカはシンジにドイツ行きのことを聞きたかったが、タイミングをつかむこと
ができず、切り出し損ねてしまった。

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 さらに翌日。今日は土曜日。そして学校は休みだ。
アスカは今日こそドイツ行きのことを切り出そうとしたが、シンジはトウジ達と
遊びに行ってしまった。どうやら昨日のうちに約束していたらしい。
ミサトは仕事らしく家にはいない。一人時間を持て余していたアスカはヒカリに
電話をしてみたが、家族そろってどこかに出かけたらしく誰もでなかった。

 アスカはシンジが出かける前に用意していてくれた昼食を食べる。
シンジの作ってくれるご飯はおいしい。でも、一人で食べる食事はつまらない。
結局半分も食べなかった。

 午後、暇を持て余したアスカはぶらぶらと町を歩きまわっていた。

 しばらく歩いているとシンジの姿が見えた。思わず声をかけようとしたが、隣に
いるのはトウジ達ではなく見知らぬ娘だった。何やら楽しそうに話している。
その姿を見てアスカの胸がズキンとする。
アスカは身を隠し様子をうかがう。すると娘は何やらお礼をいってシンジから
離れていく。どうやら道を教えていたらしい。アスカはシンジに見つからないよう
にその場から離れていった。

 なぜ、シンジが見知らぬ娘と楽しそうにしている姿をみて胸がズキンとしたにか
わからなかった。

 そして今日もドイツ行きについて切り出せなかった・・・

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 日曜日。すこし遅い朝食をとりながらシンジに今日の予定を聞く。どうやら出か
ける予定はないらしい。ミサトは今日も仕事だ。政府との情報戦に勝ち、すべての
責任をゼーレに押し付け、復興機関として動き出したネルフであるが、仕事は復興
事業だけではないらしい。裏では今でもごたごたしているようだ。

 シンジは掃除、洗濯を効率よくこなしていく。その様子を眺めているアスカ。
家事が一段落ついたところでアスカはドイツ行きについて切り出すことにした。

「ねぇ、シンジ。ちょっと聞いてほしいんだけど」
「どうしたのアスカ」
「あたしネルフのドイツ支部から帰ってこないかって言われてるのだけど・・・」
「それってドイツに帰るってこと?」
「まだ決まったことじゃないわ。このまま日本にいるか、それともドイツに戻るか。
 どうしようかなって思って・・・」
「そ、そんなこと急に言われても僕にわかるわけないじゃないか!」
「なっ、なによ、そんなことしか言えないわけ?」
「だってそうじゃないか。僕にどうしろっていうのさ」
「バカっ!」

 バシンッ!!

 バタンッ!!

 シンジをビンタした後、アスカは家から飛び出していってしまった。

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 どこをどう走ったのかはわからないけど気が付くとアスカは公園に来ていた。

(なんでシンジに相談しようなんて思ったのかしら・・・
 あたしはシンジに何を求めているのだろう・・・
 そう、初めてあったころからシンジに何か求めていた。
 なんで・・・・・・)

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 アスカにはたかれた後、シンジはしばらく呆然としていた。

(ミサトさんはこのことを知っていたのだろうか・・・
 なんで教えてくれなかったのだろう。
 でも知っていたら何と答えるつもりだったんだ、僕は・・・
 ・・・・・・・・・
 とにかく今はアスカを探さなくちゃ)

 シンジはアスカを探すために家から飛び出していった。

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 シンジはアスカを町中探し回った。そして公園でアスカを見つけ出した。

「アスカ・・・」
「何しに来たのよ」
「何しにって、その、アスカを探しに来たんじゃないか」
「さすが無敵のシンジ様。ホントはあたしのことなんかどうでもいいんでしょ」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「あんた、結構もてるらしいわね。昨日だって知らない女と楽しそうにしちゃって」
「あれはただ道を教えていただけだよ」
「そんなことはどうだっていいわよ。
 あんた、あたしにあんな楽しそうな顔を見せたこと一度でもあった?
 何もできないくせにあたしのところについて来ないで」
「待ってよアスカ!」
「付いてこないでよ!」

 アスカは公園から飛び出した。シンジはアスカの後を追おうとすると、アスカに
向かって走ってくる車が視界に入ってきた。そして・・・



 ドンッ!



 キキキーッッ・・・



 ガンッ!!!!



突き飛ばされた勢いでアスカは歩道へ倒れ込む。そして振り向いてみるとそこには
血を流して倒れているシンジの姿が見えた。



「シンジぃっ!!」



第9話「二人の気持ち」へ続く

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